なぜ、大震災後にストレスが下がったのか?
大震災後に、どうしてストレスが下がったのでしょうか。これには、3つの要因が考えられます。
■ 1.インターネットへのアクセスの制約
1つは、インターネットへのアクセスの制約です。あれほどの大災害のときに、インターネットにアクセスして、ストレスのチェックをする人は、物理的にも精神的にも、まだ余裕のあるほうの人です。
被災された方々は、日々の生活にも困るほどで、ストレスチェックどころではなかっただろうと思います。極めて大きなストレスを感じている方はストレスチェックをする余裕はありませんので、結果として、ストレスレベルの平均値が下がった可能性が考えられます。
家族や知人を亡くされた方や、避難を余儀なくされている方のストレスが下がるということはまずありえないことですから、「被災された方のストレス」とは、分けて考える必要があります。当分析では「非被災者のストレス」として分析します。
■ 2.ソーシャル・コヒージョン(社会的連帯、絆)の回復
2つ目の理由として、震災を受けて、国民の連帯感が高まった可能性があります。大切な人との「絆(きずな)」があらためて意識された時期でした。ふだん疎遠にしている家族や友人とも連絡を取り合い、つながりを確認した人が多かったはずです。また、多くの人が東北の人のことを思い、ボランティア活動などに参加しました。こうしたつながりの意識が高まったときには、ストレス度は減る傾向があります。
類似例として、2001年のアメリカの同時多発テロ後と、2005年イギリスのロンドン地下鉄テロ後に、イギリスでは一時的に自殺率が下がったと報告されています。その理由として、国民のつながりや連帯意識(ソーシャル・コヒージョン)が高まったためと指摘されています。
「みんなで力を合わせて、これを乗り越えていこうよ」という連帯意識や、助け合いの意識は、ストレスを下げると考えられています。日本でも、2011年の3月は一時的に自殺の割合が減っています。
■ 3.「仕事重視」の価値観の変化
3つめの理由として、震災直後は、「仕事どころではない」という雰囲気になり、仕事の成果が上がらなくてもあまり責任を問われない状況になっていたことも影響していると思われます。
首都圏では、余震の影響で電車が頻繁に止まったり、計画停電があったりして、会社に通うこともままならない状態でした。遅刻しても許される状態であり、電車が止まる前に社員を帰宅させようとして、終業時刻前の早期退社も推奨されました。
「仕事よりも、安全のほうが大事だ」「仕事よりも家族と過ごすほうが大事だ」という雰囲気がありましたので、震災に対応しなければならない公務、医療、報道、インフラ系の方などを除けば、仕事に関するプレッシャーは相当下がっていた可能性が考えられます。
震災で「人間関係」はこう変わった
当時のストレス要因を調べてみると下記のようになっていました。
対人関係のストレス要因は、他の月と比べて軒並み改善していました。代表的なものをグラフに示してみます。
人間関係の指標が大きく改善されていますので、これらの要素がストレスを下げていた可能性が高いと考えられます。
震災で「職場」はこう変わった
次に、仕事上のストレス要因を見てみると、震災後はいずれの要因も低下していました。
震災後には、職場のストレス要因も改善されていました。これもストレスを低下させていた要因と考えられます。
震災による「二極化」の可能性が高い
一般的に、ストレスを生む代表的な要因として
「人間関係」と「仕事」が挙げられます。上記で見たように、震災直後には、その両者の要因が改善されていました。それらが影響して、震災後にストレスが下がった可能性が高いと考えられます。
ただし、これは全体のストレス度の話であり、個別には異なります。私たちのまわりでも、震災をきっかけに不安感が極度に強くなってしまって、うつ病を再発させた方もいます。
全体のストレス度が下がっていても、個別には震災をきっかけに心理的に苦しむ方もいます。
そういう意味では、一般の人の平均ストレスは下がる一方で、震災をきっかけにさらに苦しむ方もいるという
「二極化」が起こっていた可能性があります。
震災後のストレス低下から、何を学べるか?
大震災後にストレスが低下していたことから、何かを学ぶことができれば、震災の経験をより生かしていくことができるはずです。
詳しくは、
こちら をご覧下さい。