地震で被災されたみなさまにお見舞い申し上げます。
本ページは震災に特化したページではございませんが、震災関連部分をピックアップいたしました (2016年4月16日)。
<ピックアップ>
リロケーション・ストレスとは?
「リロケーション・ストレス」とは、場所の移動によって生じるストレスのことです。
災害時に避難生活をするときに起こる
災害時に自宅を離れて避難生活をするときには、リロケーション・ストレスが起こりやすくなります。
避難所の生活では、食べ物の不足、水の不足、トイレの不足、家族以外の大勢の人、プライバシーの保てない空間、雑音など、快適とは言えない状況が一度に訪れます。
生活環境が一変することによって、睡眠困難になったり、体調を崩したりしやすくなります。
住み慣れた地域を離れて遠くに避難する場合や、家族と離れ離れに避難する場合には特に大きなストレスとなります。
避難生活が長くなると、ストレスはさらに積もっていきます。
避難生活のストレスは?
災害そのものが大きなストレスですが、避難生活をすると、場所を変わることによる「リロケーション・ストレス」も加わります。
避難所では、いつもは何気なくやっていることができなくなります。
・パジャマ姿で、くつろいでテレビを見ることもできません
・人前では家族との口喧嘩もしにくくなります
何をするにも周囲の目が気になり、気を遣わなければいけなくなりますので、一つ一つの行為すべてに負荷が加わります。
若い人の場合、様々な年齢階層の人と共同生活をすることは、かなりのストレスになることがあります。
高齢者の場合は、若い人よりも、新しい環境への適応に時間がかかります。持病を抱えている人も多く、いつもと場所が変わっただけでも、心身の調子を崩しやすくなります。
災害避難の場合は、「いつまで続くかわからない」というストレスもあります。
リロケーション・ストレスの症状は?
■ よく起こる症状
■ 心理面の症状
・不安
・イライラ
・怒り
・精神的不安定
・うつ状態
■ 認知面の症状
■ 身体面の症状
・健康障害
・持病の悪化
・フレイル(筋力・活力低下)
■ 行動面の症状
避難生活のストレス緩和のためには?
災害時のリロケーション・ストレスを減らすには、行政、医療などのサポートが不可欠で、家族にできることは多くはありませんが、次のようなことが大切です。
■ 家族の健康に気を配る(慣れない場所で不調が起こるのは自然なことです)
■ どんな些細なことでも聞いてあげる(みんなが我慢していることがわかっているので、自分も我慢してしまって、体調が悪くても、不安な気持ちが強くても言えなくなります。聞いてあげないと、なかなか言えないものです)
■ お互いにストレスがあることを前提にする
(ノーマルな状態ではないので、怒りの爆発や暴言などの行動が出てきても不自然ではありません)
■ 重大なことを決めるときは、少し落ち着いてから話し合って決める
■ 避難が長引いている場合は、ちょっとした遊びなど、ヘルシー・アウトレット(健全なはけ口 healthy outlets)をつくる
下記内容は、リロケーション・ストレス全体の解説です。上記にピックアップした内容と重複する部分がございますのでご了承下さい。
リロケーション・ストレスとは?
「リロケーション・ストレス」とは、場所の移動によって生じるストレスのことです。
引っ越し、転勤・転校、災害時の避難生活、高齢者施設への入居など、場所を移動して環境が一変したときに生じるストレスです。
もともとは、高齢者が施設に入居する際に様々な不適応症状が出てくることから、研究が始まり、注目されるようになったストレスです。
リロケーション・ストレスは、以下のような様々な場面で生じます。
1.高齢者施設に入居するときに起こる
リロケーション・ストレスは、高齢者が自宅を離れて施設に入居するときによく起こります。
自宅内のある部屋から別の部屋に居住を移すだけでも、高齢者にとっては大きなストレスとなることがあります。
高齢者がリロケーション・ストレスを感じやすいのは、若い人よりも環境への適応に時間がかかるためです。
また、高齢者の場合は、若い人よりも体の病気やうつ病などのメンタルヘルス不調になる確率が高いため、リロケーションをきっかけに病気が発症してしまうことがあります。
認知障害が起こったり、部屋から一切出ない完全な引きこもり状態になってしまったりするケースも報告されています。
「家族に施設に入れられた」とショックを感じて、トラウマ(心の傷)となることもあるため、「トランスファー・トラウマ(transfer trauma)」と呼ばれることもあります。
2.災害時に避難生活をするときに起こる
災害時に自宅を離れて避難生活をするときにも、リロケーション・ストレスが起こります。
食べ物の不足、水の不足、トイレの不足、家族以外の大勢の人、プライバシーの保てない空間、雑音など、快適とは言えない状況が一度に訪れます。
生活環境が一変することによって、睡眠困難になったり、体調を崩したりしやすくなります。
住み慣れた地域を離れて遠くに避難する場合や、家族と離れ離れに避難する場合には特に大きなストレスとなります。
避難生活が長くなると、ストレスはさらに積もっていきます。
3.人事異動・転勤のときに起こる
職場におけるリロケーション(再配置、人事異動、転勤)がストレスとなることもあります。
職場が変わったときには、新しい環境に適応しなければなりません。仕事内容の変化、役割の変化、物理的環境の変化、人間関係の変化など、多くの変化が一度に起こることがあるため、ストレスが高くなります。
人間は、環境の変化に対してある程度は適応できますが、適応するためにはエネルギーを使いますので、ヘトヘトになることがあります。
人事異動(転勤)の際に、引っ越しが伴う場合は、生活面のストレスも加わります。
4.引っ越しのときに起こる
引っ越しをしたときには、リロケーション・ストレスが起こりやすくなります。
自ら望んだ引っ越しの場合は、気分がリフレッシュされる効果のほうが高くなるかもしれませんが、転勤に伴う転居など、やむなく引っ越しをした場合には、リロケーション・ストレスのほうが強くなることがあります。
引っ越し前の片付け、荷造りや、引っ越し後の荷物整理などが大きなストレスとなることもあります。
新居の費用、物を整えたり買い換えたりする費用など、いろいろなお金もかかります。自宅やマンションを購入している人の場合は、家をどうするか、ローンをどうするかといった問題を抱える場合もあります。これらは、ファイナンシャル・ストレス(経済的ストレス financial stress)と呼ばれます。
遠くの土地へ移るときには、文化・習慣が違うこともありますし、言葉・方言が違うこともあります。外国に引っ越す場合は、言語も含めてあらゆることが変わるため、特に大きなストレスが生じます。
■ 子供のストレス
親の転勤に伴って、子供が転校する場合は、子供にもリロケーション・ストレスが起こります。
学校の環境の違いや、授業内容の違いよりも、友達関係の変化が大きな影響を及ぼします。転校先でなかなか友達ができない場合や、仲間はずれにされたりする場合もあります。
大人の場合は、リロケーション・ストレスが起こっても、対処するリソースを持っていることが多いのである程度カバーされますが、子供の場合は、対処するリソースをあまり持っていないので、ストレスがものすごく高まってしまうことがあります。
■ 配偶者のストレス
見逃されがちなのは、転勤に伴う配偶者のリロケーション・ストレスです。
仕事を持っている人は、職を失ったり、転職を余儀なくされたりする場合もあります。生活面に加えて、仕事面の変化も大きいため、ストレスを感じやすくなります。
専業主婦の場合は、さらに深刻なケースもあります。
子供の場合は、学校のコミュニティに入りますので、友達ができるかどうかはともかくとして、一応、友達をつくる機会はあります。
しかし、専業主婦の場合は、友達をつくる機会すらまったくないことがあります。
外出するのは、買い物など必要最小限で、あとはずっと家にいると、友達をつくる機会もほとんどなく、強い孤独感を感じてしまうケースもあります。
リロケーション・ストレスの症状は?
■ よく起こる症状
■ 心理面の症状
・不安
・さみしさ
・悲しみ
・喪失感
・孤独感
・イライラ
・怒り
・困惑
・拒否感
・精神的不安定
・うつ状態
■ 認知面の症状
■ 身体面の症状
・健康障害
・持病の悪化
・フレイル(筋力・活力低下)
■ 行動面の症状
・周囲への暴言
・欠勤・欠席の増加
・引きこもり
・アルコール依存
こうした一連の症状が同時に複数発生することがあるため、リロケーション・ストレス・シンドローム(relocation stress syndrome, RSS)とも呼ばれます。
ストレスの期間は?
状況によって異なりますが、リロケーションしてから数週間程度は続きます。
さらに長期化することもあります。
ルーティンが崩れることが最大のストレス
リロケーション・ストレスは、「ルーティンが崩れること」が一番大きなストレス要因です。
■ 高齢者施設に入るとき
高齢者施設に入居する場合は、起床・就寝時間、食事の時間などこれまでの生活リズムやルーティンのすべてが大きく変わります。
■ 災害時に避難所で生活するとき
災害時に避難生活をする場合も、普段のルーティンができなくなります。水が乏しいと、朝、顔を洗うことすらできなくなります。夜、お風呂に入ることもできません。
起床・就寝時間、食事時間も変わり、普段のルーティンが完全に崩れます。
■ 転勤・転校をしたとき
転勤・転校の場合は、通勤路・通学路が変わりますので、これまでとルーティンが大きく変わります。
ルーティンというのは、一番ストレスが少ないスタイルです。
習慣化によって脳の働きが「自動化されている」と考えられており、無意識に行動できます。目をつぶっていてもできるくらい習熟しているため、労力を要しません。
たとえば、帰宅途中にボーッと歩いていたのに、「気づいたら家に着いていた」というようなことがあります。意識しなくてもできるのです。
ところが、場所が変わるとそうしたルーティンが通用しなくなり、すべてのことを「意識」してやらなければならなくなります。これは、脳に多くの負荷がかかるということであり、ストレスを生む要因です。
場所を変わることは、「ルーティン」化されたオートパイロット機能(自動化)を解除してしまうのです。
脳の中で意識的に情報処理しなければいけないタスクが多くなりすぎて、脳のキャパシティが飽和状態になったり、キャパシティを超えてしまったりすることがあります。
この状態は、「タスク・サチュレーション(処理するタスクが飽和状態になること task saturation)」と呼ばれます。
脳の情報処理の負荷が高くなって、ストレスが高くなると考えられています。
高齢者施設入居のストレス緩和のためには?
施設に移る高齢者のリロケーション・ストレスを緩和するためには、次のようなことが大切です。
・事前に施設についての情報を伝える
・本人の意向を確かめ、よく話し合う
・代替案(オプション)を示す
・施設に移るかどうかという決定プロセスに本人にかかわってもらう
(やむを得ない場合を除いて、本人に伝えずに施設に移すことを決定しない。)
・施設の写真を見てもらったりして、詳細を伝える
・食事の内容について伝える
・一日のスケジュールについて伝える
・できるだけ、現在の部屋と似たような部屋にする
・大切にしている物は持って行けるようにする
・できるだけ、現在の趣味・好みを続けられるようにする
・自分や他人を傷つける物は絶対に置かない
・少しでも本人のコントロール感が保てるようにする
避難生活のストレス緩和のためには?
災害そのものが大きなストレスですが、避難生活をすると、場所を変わることによる「リロケーション・ストレス」も加わります。
避難所では、いつもは何気なくやっていることができなくなります。
・パジャマ姿で、くつろいでテレビを見ることもできません
・家で家族と口喧嘩をしていた人は、人前では口喧嘩もできません
普段は何も気にせずにやっていることでも、周囲の目が気になり、気を遣わなければいけなくなりますので、一つ一つの行為すべてに負荷が加わります。
若い人の場合、普段は同年代の人としかつきあいのない人が多いため、様々な年齢階層の人と共同生活をすることは、それだけでも、かなりのストレスになることがあります。
高齢者の場合は、若い人よりも、新しい環境への適応に時間がかかります。持病を抱えている人も多く、いつもと場所が変わっただけでも、心身の調子を崩しやすくなります。
災害避難の場合は、「いつまで続くかわからない」というストレスもあります。先の見通しを持てないことは、かなりのストレスとなります。
災害時のリロケーション・ストレスを減らすには、行政、医療、ボランティアなどのサポートが不可欠で、家族にできることは多くはありませんが、次のようなことが大切です。
・家族の健康に気を配る(慣れない場所で不調が起こるのは自然なことです)
・どんな些細なことでも聞いてあげる(みんなが我慢していることがわかっているので、自分も我慢してしまって、体調が悪くても、不安な気持ちが強くても言えなくなります。聞いてあげないと、なかなか言えないものです)
・お互いにストレスがあることを前提にする
(ノーマルな状態ではないので、怒りの爆発や暴言などの行動が出てきても不自然ではありません)
・重大なことを決めるときは、少し落ち着いてから話し合って決める
・避難が長引いている場合は、ちょっとした遊びなど、ヘルシー・アウトレット(健全なはけ口 healthy outlets)をつくる
引っ越し後のストレス緩和のためには?
引っ越ししてからしばらくの間は大変ですが、以前のルーティンと似た状態をつくれるようにすることがポイントです。
・整理、片付け、様々な届け出など、やるべきことが多いので、順位付けをする
・リロケーションに伴うストレスは避けようがないので、その他のストレスを減らす
・今まで続けていた習慣は、できるだけ続けられるようにする(散歩等)
・趣味のサークルなどに入っていた場合は、転居先でも同じようなサークルに入って趣味を続ける
・子供の習い事は、転居先でも同じ習い事ができるようにする(子供が嫌がる場合を除いて)
・新しい友達をつくるには時間がかかるので、これまでの友達に話を聞いてもらう
異動・転勤のストレス緩和のためには?
仕事面でも、なるべく早く、新しいルーティンをつくれるようにすることが、負荷を減らすポイントです。
・新しい職場で、話しやすそうな人をまず一人見つける
・職場ごとに慣習が違う場合があるので、仕事の進め方は、周囲の人とよく相談する
・簡単にできることから、少しずつ慣れていく
家族とともに転勤した場合は、自分を支えてくれる家族のケアは特に大切です。
・家族もストレスを抱えていることが多いので、家族のことに気を配る
・家族と一緒に遊びに行ったりして、みんなで気分転換をする
・地域でイベントなどがあるときには、家族と一緒に参加する
欧米より日本のほうがストレスが強い可能性も
リロケーション・ストレスは、欧米人のストレスとして研究されてきました。
どちらかというと移動に慣れた「移動型民族」の欧米人ですら、リロケーション・ストレスを感じるのですから、「定住型民族」である日本人は、移動によってさらにストレスを感じる可能性があります。
日本においてもさらなる研究が必要な分野です。
リロケーションにはポジティブな側面も
ここまでは、リロケーションのネガティブな側面を見てきました。
しかし、リロケーション(場所を変えること)にはポジティブな側面もあります。
代表的な例は、「転地療養」です。場所を変えて療養すると、病気が回復することがあります。
現在の場所にいてストレスを感じているときには、場所を変えてみることは有効なストレス・マネジメント戦略です。
場所を変えることは、気分を変えることにつながります。
・家でストレスを感じているときに、外出してみる
・オフィスでストレスを感じているときに、昼休みに外出して食事をする
・勉強でストレスを感じているときに、場所を変えて勉強してみる
・高齢者施設に入っている家族と、公園にいっしょに行ったりする
・被災して避難所にいる方は、被災要因がおさまって安全になってから、外に出て散歩したりする
リロケーション(場所を変えること)は、ポジティブにもネガティブにも働きますので、ストレスのケアにはとても重要な要素です。
著:加藤貴之(ストレスケア・コム)