世界経済フォーラムが主導する新しい動き
「職場のメンタルヘルス対策」は、世界的に大きな変革が起こりつつあります。
その流れをリードしているのが、世界の知恵が集まると言われる世界経済フォーラムです。年次総会は「ダボス会議」とも呼ばれ、世界的な企業のトップや、各国の首脳、著名な学者たちが集まって、様々なテーマが議論されています。
同フォーラムの中には、うつ病を含めた慢性疾患への対応策を考えていこうというグループもあります。
慢性疾患への取り組みを進めているグループの報告書(2010年)の中では、この二十年ほど多くの企業が心身の健康対策に力を入れてきたものの、あまり結果が伴わなかったと指摘されています。その要因として、経営者の積極的な関与がなかったこと、管理職の協力が得られなかったことなどが挙げられています。
世界の企業を対象とした大規模な調査によれば、「人事担当者が健康問題に熱心に取り組んでいる」と回答した企業は78%だったのに対して、「ライン・マネージャーが健康問題に熱心に取り組んでいる」と回答した企業は、わずか5%だったという実状も明らかになっています。
担当者がどれほど熱心に取り組んでも、組織全体のリーダーである経営者と、現場を率いる管理職の積極的な関与なしには、施策は効果を上げる ことができないということです。
その流れをリードしているのが、世界の知恵が集まると言われる世界経済フォーラムです。年次総会は「ダボス会議」とも呼ばれ、世界的な企業のトップや、各国の首脳、著名な学者たちが集まって、様々なテーマが議論されています。
同フォーラムの中には、うつ病を含めた慢性疾患への対応策を考えていこうというグループもあります。
慢性疾患への取り組みを進めているグループの報告書(2010年)の中では、この二十年ほど多くの企業が心身の健康対策に力を入れてきたものの、あまり結果が伴わなかったと指摘されています。その要因として、経営者の積極的な関与がなかったこと、管理職の協力が得られなかったことなどが挙げられています。
世界の企業を対象とした大規模な調査によれば、「人事担当者が健康問題に熱心に取り組んでいる」と回答した企業は78%だったのに対して、「ライン・マネージャーが健康問題に熱心に取り組んでいる」と回答した企業は、わずか5%だったという実状も明らかになっています。
担当者がどれほど熱心に取り組んでも、組織全体のリーダーである経営者と、現場を率いる管理職の積極的な関与なしには、施策は効果を上げる ことができないということです。
健康問題への投資効果は約4倍
こうした現状を打破するために、開発が進められてきたのが、健康問題によって企業のボトムライン(最終損益)がどのように影響を受けるかを計算する手法です。
「健康問題に取り組んだ場合のROI(投資収益率)が計算できれば、経営者も管理職もその重要性に気づき、積極的に関与してくれるのではないか」との考えから、効果を貨幣価値で表す研究が進められてきました。
累積的な研究の結果、健康問題に取り組んだ場合のROIは、1ドルの投資に対して約4ドルのコスト節約、つまり、4倍程度になることがわかってきました(世界経済フォーラム資料より)。
節約されるコストの主な内訳としては、前回の稿で述べたアブセンティーイズム・コスト(欠勤による損失)、プレゼンティーイズム・コスト(不調状態での勤務による生産性損失)です。それに医療費などが加わります。
もちろん、職場の人員構成、職場の状況、国・地域によって、ROIの数値は変わってきます。世界経済フォーラムのサイトにシミュレーション・ツールがありますので様々なケースを想定してROIを確認してみるとよいでしょう。
(http://wellness.weforum.org/)*2010年原稿執筆時点のURL
例えば、同ツールを用いて、ストレス対策への投資をシミュレーションしてみますと、大半のケースでROIは1.0を上回る(投資額より収益のほうが大きい)ことがわかります。
「健康問題に取り組んだ場合のROI(投資収益率)が計算できれば、経営者も管理職もその重要性に気づき、積極的に関与してくれるのではないか」との考えから、効果を貨幣価値で表す研究が進められてきました。
累積的な研究の結果、健康問題に取り組んだ場合のROIは、1ドルの投資に対して約4ドルのコスト節約、つまり、4倍程度になることがわかってきました(世界経済フォーラム資料より)。
節約されるコストの主な内訳としては、前回の稿で述べたアブセンティーイズム・コスト(欠勤による損失)、プレゼンティーイズム・コスト(不調状態での勤務による生産性損失)です。それに医療費などが加わります。
もちろん、職場の人員構成、職場の状況、国・地域によって、ROIの数値は変わってきます。世界経済フォーラムのサイトにシミュレーション・ツールがありますので様々なケースを想定してROIを確認してみるとよいでしょう。
(http://wellness.weforum.org/)*2010年原稿執筆時点のURL
例えば、同ツールを用いて、ストレス対策への投資をシミュレーションしてみますと、大半のケースでROIは1.0を上回る(投資額より収益のほうが大きい)ことがわかります。
「福利厚生」から「競争力強化」の位置づけに
ROIが計算できるようになったことに加えて、近年の社会・経済情勢も、健康対策の重要性があらためて見直されるきっかけとなりました。
現在、多くの先進国では、高齢化が進んでおり、それに伴って慢性疾患を抱えながら働く人の増加が予想されています。
企業内においては、競争の激化や、業務のスピードアップのため、仕事上のプレッシャーを感じる人が増え、ストレスによる生産性低下の影響も大きくなっています。
一方、発展途上国では、衛生的な取り組みがあまり進んでおらず、病気の予防も進んでいません。
途上国の中には、心の病気になる人が多い国もあります。その途上国での事業展開が、いまやビジネスを大きく左右する時代になっています。
こうした状況の変化を受けて、経営者たちの意識も変わってきました。
これまで、健康対策は「福利厚生」施策の一つとして捉えられることが多かったのですが、先端的企業の経営者は、健康対策を「競争戦略」として位置づけ始めています。
世界各地で、より能力の高い人材を集め、生産性の高い仕事をしてもらって、企業の収益を高める。そのための施策として健康プログラムが活用され始めたのです。
このような「競争力強化」を目指した戦略的な健康対策の広がりは、これまでの健康対策のトレンドとは大きく異なっているため、「第二の波」と呼ばれています。
言うまでもなく、心身の健康は、社員の満足感や幸福感の向上のために、とても大切なものです。と同時に、健康で満足感の高い社員が「いい仕事」をすれば、企業の収益にも跳ね返ってきます。
健康対策は、従業員にとっても、企業にとっても、ともに利益のある施策なのです。
とはいえ、「企業側の利益」が見えにくい面があるのも事実です。それを目に見える形で表現してくれるのがROIです。
健康対策、メンタルヘルス対策がどんな効果があるのかを知るために、ときにはROIなどの計算ツールを使ってみることも有効でしょう。
なお、これまでの各種研究によって、事後対応より予防のほうが、ROIが高くなることがわかっています。そこで、次回からは、不調を予防するための具体的なマネジメント法について述べていこうと思います。
現在、多くの先進国では、高齢化が進んでおり、それに伴って慢性疾患を抱えながら働く人の増加が予想されています。
企業内においては、競争の激化や、業務のスピードアップのため、仕事上のプレッシャーを感じる人が増え、ストレスによる生産性低下の影響も大きくなっています。
一方、発展途上国では、衛生的な取り組みがあまり進んでおらず、病気の予防も進んでいません。
途上国の中には、心の病気になる人が多い国もあります。その途上国での事業展開が、いまやビジネスを大きく左右する時代になっています。
こうした状況の変化を受けて、経営者たちの意識も変わってきました。
これまで、健康対策は「福利厚生」施策の一つとして捉えられることが多かったのですが、先端的企業の経営者は、健康対策を「競争戦略」として位置づけ始めています。
世界各地で、より能力の高い人材を集め、生産性の高い仕事をしてもらって、企業の収益を高める。そのための施策として健康プログラムが活用され始めたのです。
このような「競争力強化」を目指した戦略的な健康対策の広がりは、これまでの健康対策のトレンドとは大きく異なっているため、「第二の波」と呼ばれています。
言うまでもなく、心身の健康は、社員の満足感や幸福感の向上のために、とても大切なものです。と同時に、健康で満足感の高い社員が「いい仕事」をすれば、企業の収益にも跳ね返ってきます。
健康対策は、従業員にとっても、企業にとっても、ともに利益のある施策なのです。
とはいえ、「企業側の利益」が見えにくい面があるのも事実です。それを目に見える形で表現してくれるのがROIです。
健康対策、メンタルヘルス対策がどんな効果があるのかを知るために、ときにはROIなどの計算ツールを使ってみることも有効でしょう。
なお、これまでの各種研究によって、事後対応より予防のほうが、ROIが高くなることがわかっています。そこで、次回からは、不調を予防するための具体的なマネジメント法について述べていこうと思います。