PTG(心的外傷後成長)とは?
PTG(心的外傷後成長)とは、ポスト・トラウマティック・グロースの略で、トラウマとなるような経験(TE、トラウマティック・イベント)の後に、人間として成長を遂げるというものです。
トラウマとなるような経験をすると、誰もが大きなストレス(PTS、ポスト・トラウマティック・ストレス)を感じます。
PTSを経験すると、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になる人と、PTG(心的外傷後成長)になる人がいます。
困難や苦しみを乗り越えると、人間的成長がある
「PTG」という言葉は、新しい言葉ですが、実際には昔からよく知られいる現象です。
「艱難汝を玉にす」という言葉があるように、困難や苦しい状況を乗り越えることで人間的成長を遂げた人は、昔からたくさんいます。
特に、社会のリーダークラスの人には、逆境を乗り越えて、人間的に成長した人が多いと言われています。
「捕虜」の経験を乗り越えたチャーチル
イギリスのチャーチルは、若い頃、南アフリカのボーア戦争で捕虜となりました。
あらゆるストレスの中でも、「捕虜」というのは、究極のトラウマ的出来事と考えられています。すべての自由を奪われるからです。
チャーチルは、死を覚悟して収容所を脱走し、イギリス本国に戻るという強烈な経験をしています。
その後のチャーチルはイギリス国民の尊敬を集める人物となりました。ちなみに、チャーチルはずっとうつ病を患っていたことでも知られています。うつを抱え、ときに苦しみながらも、国家に対して大きな貢献をしました。
イギリスのチャーチルは、若い頃、南アフリカのボーア戦争で捕虜となりました。
あらゆるストレスの中でも、「捕虜」というのは、究極のトラウマ的出来事と考えられています。すべての自由を奪われるからです。
チャーチルは、死を覚悟して収容所を脱走し、イギリス本国に戻るという強烈な経験をしています。
その後のチャーチルはイギリス国民の尊敬を集める人物となりました。ちなみに、チャーチルはずっとうつ病を患っていたことでも知られています。うつを抱え、ときに苦しみながらも、国家に対して大きな貢献をしました。
イラクで捕虜になった女性軍医に学ぶ
PTG(外傷後成長)について語るときに、欠かすことができないのは、ロンダ・コーナムさんの話です。
1991年の湾岸戦争でイラク軍の捕虜となった女性です。当時の階級は陸軍少佐で、軍医でもありました。
彼女は、イラク軍に撃墜された戦闘機のパイロットを救出するために、ヘリコプターに乗り込み、イラクに向かいました。
ところがイラク側に砲弾を撃ち込まれ、ヘリは墜落。乗員8人中5人が死亡。コーナムさんも、地面に叩きつけられ、重傷を負いました。その後イラク兵に捉えられ、捕虜となったのです。
捕虜は、言葉では表せないほどの過酷な状況に置かれます。彼女は、骨が砕ける重傷を負っていて激痛が続く状況の中で、イラク兵から性的いたずらをされました。性的いたずらは拷問の一種と考えられています。
撃墜され、目の前で仲間が戦死。自身は重傷を追い、さらに捕虜にされ、性的いたずらをされる。これらのうち1つだけでも、強烈な「トラウマ」となりうるものです。次々と強烈な「トラウマ」的出来事が襲ってきたにもかかわらず、コーナムさんは、PTSDになることはなく、苦しみを乗り越えて、人間として、リーダーとして成長を遂げました。
つまり、PTGの状態となったのです。
その最大の要因は、「感謝の気持ち」でした。
■「耐えられないほどの苦しい経験をしたけれども、それでもまだ命がある、神様、生かしてくれてありがとう」という感謝の気持ち
■「この経験で、夫や娘との絆がさらに強まった」という家族への感謝の気持ち
■「この苦しい経験からも学べることがあった、それはありがたいことだ」という感謝の気持ち
■「この経験で、夫や娘との絆がさらに強まった」という家族への感謝の気持ち
■「この苦しい経験からも学べることがあった、それはありがたいことだ」という感謝の気持ち
こういった気持ちが、苦しみを乗り越えさせ、成長へとつながったようです。
「感謝の気持ち」がPTGにつながる
ロンダ・コーナムさんが特別な珍しい人かというとそういうわけではなく、多くの人が、「感謝の念」を持つことで、何らかの成長・発展を遂げることがわかっています。
東日本大震災の後には、テレビのインタビューなどで、被災者の方たちが、感謝の念を表しているのを何度も見かけました。
とても苦しい思いをしているにもかかわらず、生きていられることへの感謝、家族への感謝、支えてくれる方たちへの感謝を表していました。
こうした気持ちは、多くの人に生じます。
PTGは、特別なことではなく、誰もがその可能性を持っているものです。
実は、トラウマ経験後にPTSDになる人よりも、PTGになる人のほうが多いことがわかっています。
戦争、災害、事故、病気など、死を覚悟しなければいけないような経験をした後に、「生きていられるだけで、とてもありがたい。命を大事にしようと思った」とか「まわりの人に助けてもらい、人の温かみがわかった。苦しかったけど、大切な経験だったのかもしれない」などと気づいて、その後の生活や態度を大きく変えた人は少なくありません。
20年後のコーナムさんは、「レジリエンス」の責任者に
コーナムさんは、1991年にイラクで捕虜となって以降、その経験を生かしてリーダーとしてさらに成長を遂げ、将軍(准将)にまで昇進し、また家庭人として、充実した生活を送ってきました。
彼女は、2009年から、アメリカ陸軍が組織を挙げて導入した、CSF(コンプリヘンシブ・ソルジャー・フィットネス)というプログラムの総責任者となっています。
CSFは、「レジリエンス(逆境から立ち直る力)」をトレーニングするプログラムです。逆境から立ち直ったコーナムさんの経験が生かされることとなりました。
「病理モデル」と「成長モデル」のバランスをとる
米陸軍では、従来は「トラウマからPTSDになる」という病理面ばかりが教育されており、逆境から立ち直った人の話や、「トラウマを生かして成長につながることがある」という成長面を教えていなかったようです。
PTGは、リーダー候補にも知られていなかった
米陸軍士官学校で、ある講師が士官候補生に聞いたところ、PTSDについては8割の人がよく知っていたのに対して、PTGを熟知していたのはわずか2%で、78%の人は、PTGという言葉すら聞いたことがなかったそうです。
米陸軍士官学校で、ある講師が士官候補生に聞いたところ、PTSDについては8割の人がよく知っていたのに対して、PTGを熟知していたのはわずか2%で、78%の人は、PTGという言葉すら聞いたことがなかったそうです。
「今までは、陸軍では病理というネガティブな面を中心に教えており、著しくバランスを欠いていた。人間はもっと多様な面を持った包括的な存在であることをきちんと教えなければいけない」(陸軍)という反省から、PTGを含めたレジリエンス教育を行うことに変更しています。(参考:ジョージ・ケーシー陸軍参謀総長論文)
陸軍では「疾病モデル」に偏りすぎていたストレス対策をやめ、「成長モデル」とのバランスを考えたストレス対策へと変わりました。
なお、コーナムさんが、PTGと自分の経験を語っているビデオがあります。
在日米陸軍がユーチューブに公開していて、日本語字幕も付いていますので、関心のある方はご覧下さい。
コーナムさんが語っている「学びの機会(ラーニング・オポチュニティーズ)」という言葉も、キーワードです。
うつ病などから回復した人たちの中には、「苦しかったけど、勉強になった」「いろいろ学べた」という感想を述べる人がけっこういます。「学びの機会」になったと実感できたときに、トラウマ的な出来事の苦しみも、少し緩和された状態となります。
2分04秒くらいから、「PTSDとPTGについて」解説
2分50秒くらいから、ご自分の経験談(湾岸戦争)
コーナムさんは、自身がPTGの経験者であり、医者であり、陸軍のレジリエンスの責任者ですから、PTGの第一人者。ポジティブ心理学の祖であるマーティン・セリグマン博士の本にも、PTGの例として、コーナムさんの話は何度も出てきます。本記事は、下記のコーナムさんの手記を参考にさせていただきました。
イラク軍に囚われて―米陸軍少佐ロンダ・コーナム物語