ヨーロッパの職場のストレスは?
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「ストレス」と「生産性」の関係を調べるため、ヨーロッパ24か国のデータからグラフをつくってみました。
ストレス調査は、EWCS(欧州就労条件調査)のデータを用いています。2005年版を最後にストレス調査は終了してしまいましたので、2005年版に基づいてつくりました。
ヨーロッパ24か国のストレスは、下図のようになっています。
2005年時点では、国別では、ギリシアのストレスが突出しています。その後に起こった「ギリシア危機」と、何らかの関係をしているのかもしれません。
一方、ストレスが一番少ない国は、イギリスでした。イギリスは、ストレス対策のノウハウが比較的進んだ国として知られています。ギリシアの5分の1くらいの水準です。
なお、アメリカと日本のデータは、指標の取り方が異なるため参考値です。2005年に近い時期のデータを掲載しています。
(アメリカのデータは、2008年アメリカ心理学協会調査。日本のデータは、2007年厚生労働省「労働者健康状況調査」)
ストレスと生産性は、ある程度の相関関係にある
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「ストレス」と「生産性」のデータから、散布図をつくってみると、次のようになりました。ストレス調査の時期に合わせて、生産性データは2005年のOECDのデータ(労働一時間当たり生産性)を使っています。
ストレスを感じている人の割合が高くなると、生産性は低下していることがわかりました。相関係数を計算してみると、-0.35でした。
散布図ではわかりにくいので、24か国のうち、ストレスを感じている人の割合が低いほうから順に、8か国ずつにグループ分けしてみました。 ストレス低位国、中位国、高位国に分けてみると、ストレス低位国は生産性が高く、ストレス高位国は生産性が低い傾向が出ています。
(ベルギーとオーストリアは同じストレス度であるため、按分しています)
「ストレス」と「生産性」の間には、一定の相関関係があるようです。
「ストレス」と「生産性」の関係は?
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上記は、国家レベルでの「ストレス」と「生産性」の関係です。「ストレス」と「生産性」の関係は、
1.国家レベル
2.組織(チーム)レベル
3.個人レベル
の3つの観点があります。
高ストレス者は、「生産性」が低下する
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個人レベルでの「ストレス」と「生産性」の関係を見てみます。
「高ストレス」の人と「低ストレス」の人で、生産性がどのくらい違うのかを調べた研究はいくつかあります。
Riedelらの研究では、「高ストレス」の人は、「低ストレス」の人と比べて、4.8%の生産性低下となっています。
Bolesらの研究では、高ストレスによる生産性低下は、5.2%となっています。
2つの研究をもとにすると、「高ストレス」の人は、「低ストレス」の人に比べて、「5%程度」生産性が低くなるようです。
5%程度の生産性低下が起こる
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アメリカではストレスが高い人の年間生産性低下額は、2000ドルと見積もられています。これは、平均年収4万ドルのうちの「5%」という計算です。
日本人の平均給与も、420万円くらい(国税庁民間給与実態統計調査)ですから、「5%」を当てはめると、ストレスが高い人の生産性低下は、年間平均約21万円ということになります。
なお、年収1億円の経営者の場合は、高ストレス状態で5%生産性が低下すると、500万円のマイナス要因となります。地位の高い人ほど、ストレス対策が必要とされるゆえんです。
チームレベルの生産性低下も
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あまり研究が進んでいないのは、チームレベルでの「ストレス」と「生産性」の関係です。
例外的に、航空宇宙分野、防衛分野では、事故防止の観点から、ストレスとチーム・コーディネーション(連携)との関係が研究されています。
生産性の低さが、ストレスを生む
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「生産性の低さ」が「ストレス」を生み出している面もあります。
生産性が低い状態とは、個人にとっては「成果が出ない状態」、会社にとっては「利益が出ない状態」です。 がんばって仕事をしているのに、成果が上がらなければ、フラストレーションやストレスがたまります。
生産性が低いまま、より多くの利益を出そうとすれば、長時間働かざるをえなくなります。生産性の低さは、長時間労働にもつながります。
成果が出ないと、上司からの成果向上へのプレッシャーがきつくなったり、部門間での責任のなすりつけあいが起こったりして、チーム内の軋轢が生まれることがあります。 チーム内に軋轢が起こると、各メンバーのストレスは高くなます。
以上のように、「ストレス」と「生産性」は、相互に密接な関係を持っています。