現代の多くの仕事は、複数のメンバーによるプロジェクトで動いています。

　プロジェクトをうまく管理し、遅滞なく遂行するには、働き手である「人間」の特性を知っておくことも重要なことです。

　人間には共通の特性のようなものがあり、人間にまつわる要素は「ヒューマン・ファクター（人的要素）」と呼ばれています。ストレスも、ヒューマン・ファクターの一つです。

　ストレスは、私たちの「心」と「体」と「頭」の三つに影響を及ぼします。
　このうち、「心」と「体」への影響については、ご存知の方も多いと思いますが、仕事に一番密接にかかわってくるのは、「頭」の要素です。

　ストレスがあると、「うっかり忘れてしまった」「気がつかなかった」「判断を間違えた」「物事を決められない」といったことが起こりやすいことがわかっています。

　ストレスは、記憶力、注意力、創造性、判断力、意思決定力などに影響を及ぼします。

　ストレスが記憶に影響するとどういうことが起こるでしょうか。

　例えば、「１、２、３・・・」と、１００まで順番に数える作業をしているとします。途中で何か別のことを考えてみて下さい。

　「昨日の昼は、何を食べたかな」「日曜日にどこに行こうかな」などと考えて、その後、もう一度数えようとすると、「あれっ、どこまで数えたかな？」と、数え終わった数字を忘れていることがあります。

　別のことを考えると、それによって注意がそらされて、どこまで作業が終わったかという記憶が失われてしまうことがあるのです。そのため、確認作業が生じて、遅れが出てきます。

　人間関係などでストレスを抱えている人は、作業途中に、「また上の人に怒鳴られるかもしれないな。嫌だな」とか、「あの人の顔を見たくないな」といったことが頭に思い浮かんだりします。
　そうすると、どこまで作業が進んだか忘れてしまい、進行状況の確認のために、作業が遅れるのです。

　一つ一つの遅れは小さなものでも、それが積み重なっていくと大きな遅延につながります。プロジェクトで進行している作業の場合は、一つのプロセスに遅れが生じると、その後のプロセスに影響が出て、大幅な遅れとなることもあります。製作期間や工期が延びて、コストが増加する可能性も出てきます。

　ストレスのもう一つの問題は、視野が狭くなる点です。ストレスが多くなってくると、眼球の動く範囲が狭くなることがわかっています。

　また、実際の視覚だけでなく、心理的にも視野が狭くなってきます。アメリカ海軍の研究によると、ストレスが高くなるほど「チームの視点」が減少し、チームメンバーと連携をとらなくなることが明らかになっています。

　ストレスによって、チームの視点が減少し、コミュニケーションが悪くなると、連絡漏れや連携ミスなどが生じやすくなります。その結果、プロジェクト全体の流れが悪くなり、進行が遅れることにもつながります。

　こうして、いったん遅れが生じると、今度は、「遅延」自体がストレスとなります。遅れているために、焦りが出て、簡単なことでもミスをしてしまったり、あるいは、あってはならないことですが、手抜きや規則違反といったことも起こりがちです。

　こうしたことを防止するためにも、ストレスへの対応が必要となってきます。

　対応策の一つは、職場全体で、余計なストレスを与えないようにしていくことです。

　社員の人たちに「仕事の厳しさ」や「困難なことへのチャレンジ」といったストレスを感じてもらうことはまったく問題のないことですが、それ以外の余計なストレス、例えば、怒鳴りつけるとか、無視をするといったストレスは、可能な限り取り除いていくことが大切です。

　もう一つは、個人個人に、ストレスが作業に影響を及ぼすことを知ってもらい、個人の立場でストレスを解消してもらうことです。

　ストレスの解消法には、多様なものがありますので、何をするかは個人の自由ですが、深呼吸など多くの人に当てはまるリラクセーション法を知ってもらうことも一つの方法です（下記参照）。