計器の読み間違えが重大事故に
ストレスが重大事故を引き起こしたケースがあります。
1988年にペルシア湾にいる米海軍のイージス艦に向かってイランから飛行機が飛んで来ました。ある乗組員が艦内の計器を読みとって危険性を察知しました。
乗組員たちはその飛行機に何度も交信を試みましたが応答がありません。彼らは「応答がないのはイランの戦闘機だからだ」と考えました。
3分後には相手の射程圏に入り、艦が攻撃される恐れがあります。艦長は「これ以上は待てない」というギリギリの時点でミサイル発射を命じました。
ミサイルは飛行機に命中。イージス艦は難を逃れました。
ところが、この飛行機は民間機であり、290名の命を奪っていたのです。
この痛ましい事故の調査報告書では、「攻撃されると思い込み、乗組員がストレス状態に陥って、計器を誤認したことがきっかけ」と指摘されました。ストレスによる計器の読み間違えが重大事故につながったのです。
事故以降、米海軍は総力を挙げてストレス下での認知活動を研究し、再発防止に努めました。
1988年にペルシア湾にいる米海軍のイージス艦に向かってイランから飛行機が飛んで来ました。ある乗組員が艦内の計器を読みとって危険性を察知しました。
乗組員たちはその飛行機に何度も交信を試みましたが応答がありません。彼らは「応答がないのはイランの戦闘機だからだ」と考えました。
3分後には相手の射程圏に入り、艦が攻撃される恐れがあります。艦長は「これ以上は待てない」というギリギリの時点でミサイル発射を命じました。
ミサイルは飛行機に命中。イージス艦は難を逃れました。
ところが、この飛行機は民間機であり、290名の命を奪っていたのです。
この痛ましい事故の調査報告書では、「攻撃されると思い込み、乗組員がストレス状態に陥って、計器を誤認したことがきっかけ」と指摘されました。ストレスによる計器の読み間違えが重大事故につながったのです。
事故以降、米海軍は総力を挙げてストレス下での認知活動を研究し、再発防止に努めました。
なぜストレスでミスが起こるのか?
なぜストレスによって、認知機能のミスが起こるのでしょうか。
最近のストレス学は「情報処理モデル」に基づいた考え方が主流になっています。情報処理モデルとは、人間の脳の活動をコンピュータになぞらえて考えるモデルです。
パソコンを考えていただくとわかると思いますが、コンピュータは、CPU、ハードディスク、メモリーなどで構成されています。このうちメモリーは、作業をするための領域として使われています。
人間の脳も同様の仕組みを持っています。脳の作業領域は「ワーキングメモリー」と呼ばれており、その容量は一定と考えられています。容量が一定のため、複数の作業を同時に行うと、容量の奪い合いが起こります。
脳は様々なことを処理していますが、「ストレスの処理」もその1つです。「ストレスの処理」に多くのメモリーが必要になると、本来やるべき「仕事の処理」に配分できるメモリーの容量は減ってしまいます。その結果、処理能力が低下して、処理の遅れやエラーが生じやすくなるのです。
最近のストレス学は「情報処理モデル」に基づいた考え方が主流になっています。情報処理モデルとは、人間の脳の活動をコンピュータになぞらえて考えるモデルです。
パソコンを考えていただくとわかると思いますが、コンピュータは、CPU、ハードディスク、メモリーなどで構成されています。このうちメモリーは、作業をするための領域として使われています。
人間の脳も同様の仕組みを持っています。脳の作業領域は「ワーキングメモリー」と呼ばれており、その容量は一定と考えられています。容量が一定のため、複数の作業を同時に行うと、容量の奪い合いが起こります。
脳は様々なことを処理していますが、「ストレスの処理」もその1つです。「ストレスの処理」に多くのメモリーが必要になると、本来やるべき「仕事の処理」に配分できるメモリーの容量は減ってしまいます。その結果、処理能力が低下して、処理の遅れやエラーが生じやすくなるのです。
脳のメモリーをマネジメントする
では、ストレスフルな状況でミスをしないためにはどうしたら良いのでしょうか。
その基本は、脳のメモリーのマネジメントで、具体的には3つの方法があります。
1つ目の方法は「入念な準備」です。
たとえば、車で旅行に行く日の朝に、エンジンをかけてみたら、かからなかったとします。突然のことにあわてて、頭の中は情報処理に追われます。メモリーの負荷も増大します。ようやく解決策を見つけて出発できたとしても、出発時間が遅れていると焦りやイライラから事故を起こす可能性が高まります。
こうした突然のメモリーの負荷を減らすには、点検作業などの事前の準備が必要です。入念な準備はミスの防止につながります。
2つ目の方法は「訓練」です。
カーネギーメロン大学の研究によれば、訓練して熟達すると脳内の処理が自動化され、メモリーの使用量を約90%削減できるそうです。頭を使わなくても作業ができてしまうのです。
ものづくりや建設などの作業現場には、目をつぶっていても機械の操作ができるベテラン作業員がいるのではないかと思います。そういう人は、仮にストレスの処理にメモリーを奪われたとしても、ほとんどミスなく作業をこなせます。
しかし、イージス艦の事故のように訓練を積んでいるのに失敗してしまうケースもあります。
この事故では「攻撃されるという1つのシナリオしか考えられなくなっていた」と指摘されています(シナリオ・フルフィルメント)。特定のシナリオの訓練ばかり重ねていると、そのシナリオにとらわれて、突発的なことが起こったときに適切な認知や行動ができなくなることがあります。
ミスを防ぐには、ベテランには別シナリオの訓練、若手には基本的な訓練が有効です。
3つ目の方法は「メモリーのリフレッシュ」です。
ストレスは頭の中で繰り返し再生されるため、なかなか頭から離れないものです。しかし、食事のことを考えただけで、悩み事を忘れていたという現象もよくあります。
人間のメモリーは数十秒しか情報を保持できず、最新の情報が入ってくると、直前の情報は消失することがわかっています。
この性質を利用して、意図的に別のことに意識を向けると、ストレスが頭から離れやすくなります。
短い時間であっても、ストレスからメモリーを解放してやると、処理能力が回復し、ミスの可能性が減少します。
その基本は、脳のメモリーのマネジメントで、具体的には3つの方法があります。
1つ目の方法は「入念な準備」です。
たとえば、車で旅行に行く日の朝に、エンジンをかけてみたら、かからなかったとします。突然のことにあわてて、頭の中は情報処理に追われます。メモリーの負荷も増大します。ようやく解決策を見つけて出発できたとしても、出発時間が遅れていると焦りやイライラから事故を起こす可能性が高まります。
こうした突然のメモリーの負荷を減らすには、点検作業などの事前の準備が必要です。入念な準備はミスの防止につながります。
2つ目の方法は「訓練」です。
カーネギーメロン大学の研究によれば、訓練して熟達すると脳内の処理が自動化され、メモリーの使用量を約90%削減できるそうです。頭を使わなくても作業ができてしまうのです。
ものづくりや建設などの作業現場には、目をつぶっていても機械の操作ができるベテラン作業員がいるのではないかと思います。そういう人は、仮にストレスの処理にメモリーを奪われたとしても、ほとんどミスなく作業をこなせます。
しかし、イージス艦の事故のように訓練を積んでいるのに失敗してしまうケースもあります。
この事故では「攻撃されるという1つのシナリオしか考えられなくなっていた」と指摘されています(シナリオ・フルフィルメント)。特定のシナリオの訓練ばかり重ねていると、そのシナリオにとらわれて、突発的なことが起こったときに適切な認知や行動ができなくなることがあります。
ミスを防ぐには、ベテランには別シナリオの訓練、若手には基本的な訓練が有効です。
3つ目の方法は「メモリーのリフレッシュ」です。
ストレスは頭の中で繰り返し再生されるため、なかなか頭から離れないものです。しかし、食事のことを考えただけで、悩み事を忘れていたという現象もよくあります。
人間のメモリーは数十秒しか情報を保持できず、最新の情報が入ってくると、直前の情報は消失することがわかっています。
この性質を利用して、意図的に別のことに意識を向けると、ストレスが頭から離れやすくなります。
短い時間であっても、ストレスからメモリーを解放してやると、処理能力が回復し、ミスの可能性が減少します。
脳のメモリーをリフレッシュする
脳のメモリーをリフレッシュする方法として、コンタクトポイント(接触部分)に意識を向ける方法をご紹介します。
人間の体は、必ずどこかに接しています。立っていれば「足の裏」が床と接しており、座っていれば「背中」や「お尻」がイスと接しているはずです。
2~3分間、足の裏、背中などに意識を集中してみて下さい。温かさなども感じてみましょう。そうすると、意識を向けていない情報は脳のメモリーから去っていきます。
この方法は、脳のメモリーを広げるトレーニングの一つとして、米海兵隊などでも導入されています。
1. 座って目を閉じます
2. ゆっくりと深呼吸をします
3. 2~3分間、コンタクトポイントに意識を向けて下さい
4. 終わったらゆっくり目を開けましょう
人間の体は、必ずどこかに接しています。立っていれば「足の裏」が床と接しており、座っていれば「背中」や「お尻」がイスと接しているはずです。
2~3分間、足の裏、背中などに意識を集中してみて下さい。温かさなども感じてみましょう。そうすると、意識を向けていない情報は脳のメモリーから去っていきます。
この方法は、脳のメモリーを広げるトレーニングの一つとして、米海兵隊などでも導入されています。
1. 座って目を閉じます
2. ゆっくりと深呼吸をします
3. 2~3分間、コンタクトポイントに意識を向けて下さい
4. 終わったらゆっくり目を開けましょう