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「ストレスが意思決定に影響する」ことを多くの人は知らなかった
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1990年代以降、ストレスの研究が大きく進展したのは、1988年に起こった衝撃的な事故がきっかけとなっています。
1988年7月に、ペルシア湾で米イージス艦がイランの民間航空機を撃墜し、民間人290名が死亡する事故が起こりました。

日本でも、連日、新聞で大きく報道された重大事故だった・・・(各社新聞より)
この事故では、イージス艦のクルーたちは、「敵機から攻撃されるかもしれない」という
極度のストレスから、民間機を敵機と
誤認し、艦長が「撃墜」という
誤った意思決定を行ってしまいました。
わずか1つの「意思決定のミス」によって、多くの人が犠牲になり、あわやアメリカとイランの全面戦争になりかねないという重大危機を迎えました。
それほど「意思決定」というのは重大なものであり、
現場の1つの意思決定が組織全体に大きな影響をもたらす場合があることを、多くのリーダーが改めて認識した事故でした。
しかも、そこに
ストレスが影響しているということが事故調査報告で明らかにされ、ある種の衝撃を与えました。
それまで、ストレスは健康と関係があるものと考えられており、ほとんどの人は、「
ストレスが意思決定に重大な影響を及ぼす」ことなど、知りませんでした。国や企業のリーダーたちは、驚きました。
意思決定に影響があるのであれば、国のリーダーや軍の司令官、企業のエグゼクティブなど、意思決定に携わる者ほど、「ストレスの影響」についてよく知っておく必要が出てきます。
アメリカ議会は、二度と同様の事故を起こさないように、「ストレス下での戦術的意思決定」の研究に対する予算を承認しました。「ストレス下の意思決定」は
国家的な研究課題となったのです。
こうして、ストレスの研究は、「
意思決定」を1つのキーワードにして、幅広い分野から行われるようになりました。
認知科学(脳科学、認知心理学)、行動経済学、航空心理学、軍事心理学(オペレーショナル心理学)などの発展とともに、ストレスの研究も急速な進歩を遂げています。
90年代以降、「ストレスと意思決定」というテーマは、
ストレス研究の新しいトレンドとなっています。