セルフケア教育で大切なこと。カギを握るのは「スティグマ」についての理解です。
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<キーワード 3> スティグマ (stigma)
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北米、欧州などでは、メンタルヘルス対策のカギを握るのは「スティグマ対策」とされています。
職場で「セルフケア」教育を行ううえでは、スティグマを理解することが欠かせません。
スティグマとは?
スティグマとは、偏見や恥ずかしさなどのことを言います。
組織的にメンタルヘルス対策に取り組んでいるアメリカ国防総省の資料によれば、メンタルヘルスに対するスティグマは主として3つあるとされています。
1.不調者に対する偏見
1つめは、メンタルヘルス不調者に対する偏見です。露骨な偏見でなくても、例えば、職場の上司が「この程度のことで、いちいち傷ついてどうするんだ。情けない」といったような発言をすることも、メンタルヘルス不調の人を苦しめたり、受診を遅らせたりすることにつながります。
2.セルフ・スティグマ
2つめは、自分がメンタルヘルス不調になったときに、「こんなふうになるのは自分が弱いからだ」「恥ずかしいことだ」「自分は情けない」「汚点だ」といったように自分を責めてしまったり、周囲の目が気になって病院になかなか行けなかったりするというタイプのものです。
3.社会制度的不利益
3つめは、精神疾患であるために差別的な待遇を受けるなど、社会構造にも関連するものです。
例えば、過度のセキュリティ・クリアランス(カウンセリングを受けている者は国家の機密情報にアクセスできない制度など。アメリカ政府は、2008年に基準を緩和。)や、メンタルヘルス不調者の昇進が見送られたりするといったものです。
そのような環境では、職業上の不利益を被りたくないので、不調を隠そうとする人が出てきます。
これらのうち、職場のメンタルヘルス対策でカギを握っているのは、2つめの、
自分の行動に影響をもたらすスティグマ(セルフ・スティグマ)です。
セルフ・スティグマを持っていると、「助けを求める」という行動が阻害されがちになります。「
心の問題で人に相談するなんて、恥ずかしいことだ」との思いから、自発的な相談を嫌がり、「医師やカウンセラーに相談する」といったことが遅れてしまいます。
欧米では、職場のメンタルヘルス対策としてEAP(従業員援助プログラム)があり、いつでも相談できるように制度が整えられています。また、地域にも多数の精神科医やカウンセラーなどがおり、相談制度自体はかなり整っています。
しかしながら、制度が整っていても、
スティグマのために自発的相談を避けるという行動が多く、結果的に利用率が高まらず、制度の効果を発揮できないことが大きな課題となっています。特に、男性、そして、「強くなければいけない」と考えられがちな国防、警察、消防などの職場で、スティグマを持つ人が少なくないようです。そのため、自発的な利用を高めるための「スティグマ対策」が非常に重視されています。
日本の職場においても、社内の相談窓口の設置や外部機関との契約など、相談制度自体は整備されつつあります。しかしながら、「利用率が高まらない」という大きな課題をやはり抱えています。
器だけ整備されていても、それが利用されなければ十分な効果は現れません。
セルフケア教育の段階で、自発的な相談を妨げる要因になりがちな
「スティグマ」について理解しもらうことが大きなカギを握っています。
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どんな方法がある?
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1.偉人のケースを伝える
うつ病だった
リンカーン、
チャーチル、
ガンジーのことを伝えていただくといいかもしれません。うつ病を抱えながら、偉大なことを成し遂げた人たちの例は勇気づけられるかもしれません。
参考になるかどうかわかりませんが、下記記事をご覧ください。
関連記事 リンカーン、チャーチルと「メンタルヘルス」
2.「事故防止」の観点から伝える
事故防止の観点からアプローチする方法もあります。「自分のためでなく、会社や顧客のために治してください」というアプローチです。
不調のまま仕事を続けると、注意力や判断力が低下していて、大きなミスや事故につながることがあります。物理的な事故だけでなく、現代社会では、メールの送信先を間違えたりするなどの「
情報流出事故」もかなり深刻な問題を招きます。
「自分のため」と思うと気が引けることがありますが、「事故を防ぐため」という大義名分があれば、少し気が楽になる人もいます。「事故が起こると会社も困りますので、治療を受けて、治してくださいね」というアプローチです。
管理職の方にも、「不調の状態で部下に仕事をさせると、事故につながることがありますから、事故を防ぐためにも、部下の体調に気をつけてください」と伝える方法があります。
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