ストレス学説の提唱者ハンス・セリエ博士は、「ストレス」とは心身の
「エネルギーの消耗」であると考えました
(前ページ参照)。
この考えを前提にすれば、「ストレス・マネジメント」とは、「いかにエネルギーを節約しながら、自分の目的のために最大限にエネルギーを使うか」ということになります。
もっと簡単に言えば、
「ストレス・マネジメントとは、エネルギーの有効活用法」と言えるでしょう。
<ストレスによってエネルギーが低下した状態>
ストレスが持続すると、それに対処するためにエネルギーを使い、エネルギー・レベルが下がってきます。
(詳しくは、 前ページ参照)
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2 休息をとる
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エネルギーが減っている場合には、
エネルギーを補給してあげる必要があります。それには、
休息をとることが重要になります
ストレス状態が続いていて、エネルギーが減っている人は、活動をいったん停止して、休むこと、眠ることが必要です。
<エネルギーが減っている人は休みましょう>
まずは休んでエネルギーを補給しましょう。エネルギーが減っていては、何もできません。
自動車でも、ガソリンが減ったら、早めにガソリンスタンドに行って、給油しないと、そのうちガス欠で動かなくなってしまいます。
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3 エネルギーのバランスをとる
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エネルギーがどこかに偏って使われていると、バランスが悪くなってきます。エネルギーのバランスをとることが必要です。
なぜ、バランスをとることが必要なのでしょうか。セリエ博士は、自動車のタイヤにたとえて説明をしています。
自動車を運転するときに、仮に、車体のバランスが悪くて、どこか一つのタイヤにだけ強い負荷(ストレス)がかかっているとしたら、どうでしょうか。そのタイヤだけが著しく摩耗してくるはずです。
おそらく早めにそのタイヤを取り替えなければいけなくなりますから、結果的に、その自動車に問題なく乗り続けられる期間は、短くなってきます。
それに対して、バランス良く4つのタイヤに負荷がかかっていれば、すべてのタイヤの消耗が同じようなペースで進み、結果的に長く自動車に乗り続けていることができます。
つまり、バランスを良くすることは、「長持ち」をさせられるということです。これは、体や心にもあてはまることです。
バランスを良くすることは、心身の(エネルギーの)消耗を抑制できるということです。
<エネルギーが偏っている状態>
ストレッサーに対処するためには、それにエネルギーを振り向けなければなりません。ある程度のエネルギーを振り向けることは当然ですが、中には、 過剰にエネルギーを振り向けてしまう人もいます。
たとえば、親しい人にメールを出したら、相手が返信をくれなかったというようなときに、「私は嫌われてしまったんじゃないだろうか」、「もうこの人との関係は終わりではないのか」などと、あれこれと考えを巡らせて、そのことだけに必要以上にエネルギーを使って、疲れてしまうというようなケースもあります。
一部のストレッサーに過剰にエネルギーを使っているときは、そのエネルギーを抑制しバランスを取ったほうが、結果的にエネルギーの節約になります。
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4 気分転換をする
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バランスをとるための方法には、
(気分)転換があります。
気分転換は、別のストレッサーを加えるというやり方です。それによって、
偏ったエネルギーの使い方のバランスがとれるようになってきます。
どんなストレッサーを加えても、バランスは修正できますが、可能であれば
「よいストレス」(別ページ参照)を引き起こすストレッサーを加えたほうが、トータルとしての心身への負荷量は少なくてすみます。
<エネルギーが偏っている人は気分転換を>
エネルギーが偏っている人は、気分転換でバランスをとることが有効です。
仕事にエネルギーを使いすぎている人は、適度な運動によって気分転換をしたり、人間関係にエネルギーを使いすぎている人は、趣味によって気分転換をしたりすると、エネルギーのバランスがとれてきます。
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<エネルギーが減っている人は気分転換はダメ>
エネルギーのバランスが悪くなっている人でも、全体のエネルギーレベルが下がっている人は、気分転換をしてはいけません。
気分転換をするようなエネルギーが残っていないため、かえって、エネルギーの消耗を速めてしまい、逆効果になります。
エネルギーが減っている人が最優先すべきことは、休んでエネルギーを補給することです。
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5 セリエ式ストレス・マネジメント法
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最後に、セリエ博士のストレス・マネジメントに関する方法論をもう一度整理しておきましょう。
If there is proportionately too much stress in any one part, you need diversion. If there is too much stress in the body as a whole, you must rest. (Hans Selye)
■一部分に強くストレスがかかっているとき
→ (気分)転換をしなさい。(バランスを回復しなさい)
■全体に強くストレスがかかっているとき
→ 休みなさい。(エネルギーを補給しなさい)
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6 その他の方法
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セリエ博士の考えたストレス対処法の基本は、上記で説明した「休息」と「気分転換」ですが、これ以外にも、ストレスに対処するための方法として、古来よりいろいろな方法が提唱され、アドバイスされています。これらはみな、
「エネルギーの有効活用」という観点から考えると、わかりやすくなります。
●規則正しい生活をしなさい
規則正しい、慣れた生活をしたほうが、エネルギーをあまり使わずにすみます。
●問題を解決しましょう
エネルギーを消耗する原因を取り除けばエネルギーを節約できます。
●受け止め方を変えましょう
受け止め方次第でエネルギーの消耗度は変わります。
●リラックス法を覚えましょう
リラックスすれば、余計なエネルギーを使わずにすみます。
●あるがままの自分を受け入れましょう
抵抗をやめれば、エネルギーを節約できます。
●人に相談しましょう
他人のエネルギーを借りることができれば、エネルギーを節約できます。
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このほかにも、いろいろなアドバイスを聞くと思いますが、基本的にはみな、エネルギーをいかに節約して、目的のために有効に使うかということにつながっています。
エネルギーを有効に使う方法を考えることが、「ストレス・マネジメント」なのです。
ここまでは、どちらかというとエネルギーの節約方法について述べてきました。しかし、一番重要なことは、「エネルギーの節約」ではなく、「エネルギーを使うこと」です。
世の中では今、癒しや、休息、リラックスなどがストレス・マネジメントの主流になっています。確かに、働き過ぎの現代人にとっては、エネルギーを節約するために癒しや休息は、とても大切なことです。しかし、それはストレス・マネジメントの半面にすぎません。
ストレス・マネジメントのもう一つの重要な手法は、「ストレスに立ち向かう」ことです。自分の目標を達成する過程で、ストレスが障害となっているのであれば、ときにはそれに立ち向かって、戦うことも必要です。
ハンス・セリエ博士も、基本的には「戦いなさい」と言っています。ただし、無駄な戦いは止めなさいと。最後に、原点に返るために、同博士の言葉を、ご確認下さい。
Fight for your highest attainable aim. But never put up resistance in vain. (Hans Selye)
自分にとって最高の目標が達成できるように頑張りなさい。でも、無益な頑張りはしてはいけない。